「ちょっと!おねぇーちゃん!」
「は、はい?!」
鞄売場でボストンバックを探しふらふら歩いていたら、
帽子売場にいる70才代の女性に呼び止められた。
なんか、巻き込まれる予感。
「私、さっきから迷ってるのよ。」
「こっちとこっち、どっちかいいか、見て。今から被るから。
私もう決められへんから、どっちか決めてくれる?」
私も優柔不断でなかなか決められない性分なので気持ちは良く分かる。
しかし、決めてとは…
見ず知らずの人に大変な責任を押し付けられたものである。
どちらの帽子も黒色で、形はよく似ている。
素材はモヘヤか、一方は毛羽立ちのないシンプルなのか。
毛羽立ちのない方は、可愛らしい花のコサージュが付いている。
あら、よく見るとモヘヤの方にも小さなボンボンが2つ。
おばさんはどうやらシンプルな方のコサージュが気に入っているようで、
これが可愛いのよ〜、と高ぶった気持ちを抑えられないのか、熱く語ってくれた。
交互に被ったおばさん。
気持ちは花のコサージュ付きに傾いているようである。
話を聞いてみると、普段使いにらしい。
それなら私の気持ちは決まった。
モヘヤである。
モヘヤのボンボンも可愛いと様子をみて言ってみた。
おばさんモヘヤを被った。
顔映りはどう?と聞かれた。
優しそうに見えます、と答えた。(本心)
おばさん、再びモヘヤを被って鏡を見た。
「ありがとう、私これにするわ!」
おばさんはニコニコ喜んでレジに向かって行った。
意外とアッサリ決まった。
私もスッパリと決められた。
客観的に見ると、こうもスッパリと決められるものなのか。
おばさんが喜んでいたので良かったが、これから毎日被っていてくれたらもっと嬉しい。
おばさんの声が響いてレジが賑やかだった。